Excès, et Marges.

「余白への書き込み」

文系院生のための就活マニュアル:準備編①

 

まず、3月1日に就職活動が始まる前からできる準備について話します。誰にでもできる作業として具体的には次の3つが挙げられると思います。 

・読書

四季報による企業分析
・筆記対策

 順番に見ていきます。

 

 

読書

 

大前提として、個人が所属する学部で得られる知識と、個人が社会に出る上で必要な知識は一致しないということを、特に人文系の学生であれば*1、強く意識する必要があります。

いずれ社会にでることを念頭に置いているあなたにとって、大学に在籍する数年間というのは、学問を究めるためだけに存在しているわけではありません。なぜこのことを強調するかというと、特に文系大学院というコミュニティはそこに在籍する人間に、善かれ悪しかれアカデミズムを多分に意識させる場であるからです*2

例えば、人文系のコミュニティでは社会科学や自然科学と比較した上での人文学の有用性、優位性を説く人が数多く存在します。しかしながら、社会にでることを意識し始めたあなたにとって、大事なことは人文学の存続云々ではなく、自分自身が社会に出るために必要な知識を身につけることです*3。就活においては、企業の財務状況を分析する知識や、ビジネスを行う上で最低限押さえていなければならないロジックがないと、右も左も分からないという状況におかれてしまいます。こうした知識は付け焼き刃だろうと、あると無いとでは大きな差を生むことになります。

もう1つ、企業が個人を採用する指標は、つきつめれば全て利潤の追求に還元されるという現実を踏まえる必要があります。市場において自らを商品価値化するための能力や知識は、学部を問わず社会に出るにあたってどの学生も身につけておかなければならないものです。

そのため、知識のバランスに乏しいという自覚がある人は、就活の前にある程度読書によって広汎な知識を蓄えておくことを推奨します。重ねて言いますが、これは人文系の学生に限った話ではありませんし、一方で人文系の学生が優れていると目されがちな能力(読解力や言語運用能力など)も、人文系の学生なら必ず身につけているものとは限りません。なるべく多くの本を読み、自分に欠けている知識を予め理解しておく必要があります。

とりあえず、私が就活にあたって読んだ本は以下のとおりです*4

 

 

 経済学

マンキュー経済学〈1〉ミクロ編

マンキュー経済学〈1〉ミクロ編

 

 

マンキュー経済学〈2〉マクロ編

マンキュー経済学〈2〉マクロ編

 

一応マンキューを挙げましたが、私は公務員試験対策として経済原論をそれなりに時間をかけて勉強したので、まったくの独習というわけではありません。時間もかかりますし、独習の難しい学問ではありますが、余裕がある人は勉強することをおすすめします。経済活動がどのような理論に基づいて動かされているのかを理解しておくと、新聞などから得られる情報量が格段に変化します。

以下の様な初学者向けの本もありますが、やはり先に理論的なことを学んでおくと理解が非常にスムーズです。大学の般教にもぐるのも効果的かもしれません。私は先にこういった本を読みましたがあまり役立てることはできませんでしたので、わからないながらも先に理論を覚えていってから、解説書で噛み砕いて理解するという順序でまとめていきました。

『ヤバい経済学』は経済学自体というより、統計的事実から多様な視点を導くプロセスを学ぶ上で役立つと思います。

カリスマ受験講師細野真宏の経済のニュースがよくわかる本 日本経済編

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カリスマ受験講師細野真宏の経済のニュースがよくわかる本 世界経済編

カリスマ受験講師細野真宏の経済のニュースがよくわかる本 世界経済編

 

 

ヤバい経済学 [増補改訂版]

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 会計・マーケティング

 

わかりやすいマーケティング戦略 新版 (有斐閣アルマ)

わかりやすいマーケティング戦略 新版 (有斐閣アルマ)

 

企業に入社するにあたって、その企業がどのような立ち位置でどのようなビジネスを行っているかを理解することや、その企業がどのような財務状況にあるかを理解することは非常に重要です。というより、それらを踏まえていなければ、企業を選ぶことがそもそも出来ません。 こうした入門書を片手に企業のHPを見て、有価証券報告書を読んでみると、なんとなく企業の動向が掴めるようになっていきます。

 

 

ロジカルトレーニング 

 なんらかの主張を行うにあたって、仮定、結論、論拠を明確にする作業は意外と慣れていないものです。もちろんこうした作業は無意識レベルで誰もが行っていることですが、言語化する習慣をつけることで、より強固になります。自分がどのような根拠に基づいて主張を行っているのかを意識していると、例えば面接で突っ込みを受けた際にも対処可能です。

また、世間にあふれている情報も、必ずしもこうした作業を念頭において書き上げられたものとは限りません。情報を取捨選択し、妥当性を検討するためにはこうした論理性のトレーニングは有用でしょう。

論理のスキルアップ―実践クリティカル・リーズニング入門

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知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社+α文庫)

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大学院生のためのアタマの使い方

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議論のレッスン (生活人新書)

議論のレッスン (生活人新書)

 

 

 

 

 就活対策本

就活対策本と銘打っている本はこの一冊くらいで十分な気がします。後述しますが、ESはどんどん書いて就職カウンセラーなりに読んでもらった方が手っ取り早いですし、面接も同様です。

もしどうしてもESなどで具体的な文章を見たいのであれば、ES回答集みたいなものを一冊買っても良いかもしれません。ただあれは学生時代に十分な実績をもつスーパーマンによる模範解答集なので参考にならないとは思います。

ロジカル面接術 2016年基本編

ロジカル面接術 2016年基本編

 

池上彰の『わかりやすく〈伝える〉技術』は人前でのプレゼンテーションを学ぶにあたって最適ですが、一つ注意しておく必要があるのは、面接はプレゼンテーションではなく会話であるということです。よくテンプレを暗記して面接に臨んでいる人を見かけましたが、暗記するほど長くものを喋る機会は面接ではほとんどありません。 

わかりやすく〈伝える〉技術 (講談社現代新書)

わかりやすく〈伝える〉技術 (講談社現代新書)

 

 

 

 

 

四季報による企業分析 

さて、就職活動を始めるとなると、自分はこの先どのような人生を送っていくのかという答えの出ない問いにぶち当たります。なかなか将来のビジョンなんて簡単に描けるものではありませんし、学生の側から見てどの企業がどのような仕事を行っているかなんてわからないことだらけです。とはいえ、星の数ほどある企業の中から選考に進む企業を選別するにあたって、ある程度目標を定めないことには動き出すことも出来ません。その際、知名度年収仕事量など、比較可能な指標はいくつかあると思います。その中からどれを重視するか、まずはおおまかに決めてみて、気になる業界を業界地図でざっと見てみるとよいでしょう。社会人の知り合いがいれば、その人に話を聞いてみるのも効果的だと思います。

会社四季報 業界地図 2015年版
 

私自身は最初の段階として、主にこの指標を用いて受験する企業を絞っていきました。私の就職における大まかな目標は「知名度は度外視、参入障壁*5が高く競合が少ない業界で健全な経営を行っている安定した企業に滑りこむ」というものでした。前述のとおり、誰もが知っている大企業を狙って優秀な学部生に囲まれて就職競争を勝ち抜き、入社後も神経をすり減らして生存競争に没入するような生き方は自分には不向きですし、コストパフォーマンスも悪いと判断しました。そのため、規模や知名度はなくとも圧倒的な技術でシェアを獲得している優良企業に入社し、競争の少ない環境で働いたほうが持ち味は活かせると考えました。*6

そうした観点から企業選別を行った結果、志望企業は自然とBtoBのメーカーに絞られていきました。何故かと言うと、日本で規模に関係なく経営状態が健全な企業は、大体BtoBのメーカーに集中しているからです。

では、その基準にマッチする企業をどのように効率よく選別していくか。ここで有効なツールとなるのが四季報です。四季報とは、国内の全上場企業の重要なデータ(主要株主、平均年収、財務状況、等)を網羅的にまとめあげた本です。この本に載っている企業の全て、もしくは関心のある業界をチェックしていってください。まったく興味が無い業界以外はなるべく多くチェックしたほうがよいと思います。何故なら、企業分析を行っていくと、業界ごとのデータの特長が見えてきます。それはそのまま業界分析にもつながるからです。選考が進むにつれて「なぜあなたはこの業界を志望するのか」といった質問が増えてゆきます。その際に、他の業界の特色を理解していると論に説得力が増します。こうした地道な分析が就活では意外と役立ちます。具体的な分析方法についてはこの記事を参考にしてください。

分析が終わったら、関心のある企業をエクセルにまとめるとよいでしょう。私自身はメーカーを片っ端からチェックし、年収、規模、キャッシュフロー自己資本比率、売上高、営業利益率をマークしました。その上でプラスアルファ(文系院生の採用実績はあるか、等)を勘案し、点数の良い上位400社ほどをエクセルにまとめ上げました。多くの場合、リクナビなどでプレエントリーをする企業は膨大な数に登ると思います。毎日何十通も説明会の案内が来る中で、手っ取り早く業績を検索し、他社と相対的に比較できるアーカイブが手元にあると非常にはかどります。ESの締め切りを入力しておくと優先順位を判断するときやスケジュール管理にも有用です。

この作業はいつだって可能ですし、一週間程気合いを入れればできるものです。思い立ったらすぐはじめておくことをおすすめします。

 

筆記対策

筆記対策は文系院生であればSPI対策を一冊、もしくは数的処理の問題をひと通りやっておくと、足切りを超えることはできると思います。難関国立受験者・中学受験者・公務員試験受験者のいずれかでしたら必要ないかもしれません。私も数的処理の問題は苦手でしたが、公務員試験でひと通り勉強したため、SPI対策はしませんでした。もちろん筆記試験で落ちたことはありません。何社か受けてみればわかると思いますが、筆記試験の足切りはそれほど高いものではありません。というのも、特に中学受験を経験していない私大の文系学生であれば数的処理は壊滅的な場合が多いため、大したことのない点数でも相対的に見れば平均を上回っている場合が多いのです。もちろん筆記試験を重視する企業もあるため、臨機応変に対策を行うことが望ましいですが、時間がもったいないので筆記対策は最小限に抑えることをおすすめします。

*1:後述しますが、これはすべての学生に共通して言えることです

*2:詳しくは就活マニュアル以外の別のエントリに書きますが、人は自分が所属するコミュニティの影響を受けるだけでなく、そのコミュニティに自らを寄せていく傾向があると私は考えています。大学院におけるマジョリティはアカデミシャンか、それを目指す人間ですので、自らコミュニティにおいてアウトサイダーであるという意識は頭の片隅に置いておくと健全な精神を保てるのではないかと思いますし、そういった視点はいずれ役立つと思います。

*3:確かに、人文学を学ぶ意義は大きいですし、私自身、修士課程まで7年間人文系の学問を究めたという事実は必ず今後の人生に資するものであるだろうという確信を持っています。

*4:ちなみにここでは資格試験のような、結果が客観的に評価される類の勉強は除外しています。例えば人文系の学生であれば、未だに簿記を取得していればそれなりの評価をもらえるようですが、ここではあくまで、就職活動における情報を読み解くためのツールとしての知識を紹介しています。

*5:この場合の「参入障壁」とは「企業のビジネス自体が他社に真似されにくい」という点と、「新卒採用が少なく、またある程度の専門性が求められるために中途採用に職を奪われにくい労働モデルが成立している」という点の2つを含意しています。

*6:特に、BtoBのメーカーは基本的に法人営業が中心ですので、私のような口数の少ない人間でも不利になりにくいという目論見もありました。