Excès, et Marges.

「余白への書き込み」

文系院生のための就活マニュアル:結論・補遺編

数回にわたって長々と書いてきた就活体験記も本稿が最終回となります。このエントリでは結論および今までのエントリの補遺を書きます。 

 

結論

 

まず、何度か言及してきたことですが、就活マニュアルと題し今まで書いてきたことの中で一番重要なポイントを述べます。

それは、「この就活マニュアル(あるいは他の就活マニュアル)に沿って就活を行ったからといって、希望通りの内定を得られるかといえば、まったくそうではない」ということです。逆もまた真なりで、この就活マニュアル通りのことを全くしなくても内定をとれる人はいます

企業にとって新卒採用の目的は「自社の売上に貢献できる(資質のある)人材を採用すること」に尽きます。身も蓋もない言い方をすれば、いくら就活のために数ヶ月〜一年間準備を重ねたからといって、それまでの人生において積み重ねてきた差が簡単に覆るわけでもないですし、生得的な素質はなおさらです。学歴や成績、賞罰のようなわかりやすいものはもちろんのこと、同じ大学で四年間過ごしたとしても、そこに至るプロセスは千差万別ですし、大学生活においても、日々を無為に過ごしてきた人もいれば、研鑽を重ねてきた人もいるでしょう。また、努力を重ねていてもなかなか外面に反映されない人もいるでしょうし、ボーっとしてるだけでも「なんとなく仕事がデキそうなオーラ」*1がにじみ出ている人もいます。なんのロジックもなくても話し方に妙な説得力のある人間だって結構います。面接官もただの人間ですので、面接の場においてこうした素質は論理を軽々と飛び越えることがままあります。例えば営業であれば、多少ロジカルな人間よりも、溢れる魅力を兼ね備えた人間を雇用したほうが売上につながるでしょう。それどころか、ロジックを積み重ねて説得的な意見を述べたとして「新卒のくせに生意気だ」と思われればそれまでです*2

それ故に、もしあなたが誰もが目を引く能力・資質を有していないのであれば、入念に準備を重ね、倦むことなくトライアンドエラーを繰り返し、少しでも自身の市場価値を高く見せなければならないということを冒頭で強調したわけですが、逆に小手先のテクニックや方法論に走りすぎて根拠のない過信に陥ってしまうことも避けなければならないのです。

とはいえ、そういった人間に経歴や学歴、資格等、他の面であなたは優っているかもしれません。就活で評価されるポイントを全て兼ね備えている人間は限られています。大多数の就活生が、均せばある程度同等のレベルで戦っています。また、放っておいてもアピールになるような資質はそれほど多くありません。であるからこそ、いかに優れた商品であろうとプレゼンテーションが駄目なら売上が伸びないように、誰であっても自分自身をPRするための最低限の準備は必要だと私は考えます。

以上のことから、就活においてあなたが「成功」を収めるためには次のことを意識する必要があります。

 

・自分という人間の就活市場における価値を見誤らない

 あなたの立ち位置(性格・能力・資質・学歴・経歴・資格、ビジネスへの適正等)を考慮した上で、自分にはどれだけの市場価値があるのかをしっかり把握する必要があります。例えば、誰も知らないような大学出身でありながら、誰もが羨む企業に入社しようとするなら学歴以外の面で相当のアドバンテージが必要だと言うことは、だれでも直感的にわかることかと思います。逆に言えば、あなたが有名大学(の院)卒だからといって、ビジネスの場で使えそうな素質を全く持っていなければ、残念ながら周囲と同じような企業には入れないかもしれません。当たり前ですが、学歴と、社会において付加価値を生み出す能力は比例関係にありません。個人単位で見ればなおさらです。

大学(院)までの受験が学力というペーパーテストの基準のみで評価されてきたのに対し、就職活動はあなたという人間が、様々な視点から「自社のビジネスに貢献できる人材か」という基準に基づいて総合的であると同時に狭窄な視野で判断されます。中にはそういった視点からは評価されないあなたの良さもあるでしょうが、面接官の目につかなければ就活において意味をなしません。周囲が有名企業に内定を取るなかで自分だけが「世間的な成功」を収めない場合なんて山のようにあります。

加えて、これは特に学部生時代の経験に基づく体感ですが、就活における決定的な時期は意外と短いです*3

よって、エントリーを行うことのできる企業数を鑑みても*4自分がどのような職業に就きたいかをよく見極め、自分の立ち位置と照らしあわせて勝率が高いコマに賭ける必要があります。履歴書的なプロフィールのみで就職偏差値なるものを照合していき企業を決定するというやり方は、ともすれば門前払いの挙句に持ち駒がなくなるという事態にも繋がりかねません*5

そのためには、客観的な意見を収集しておく必要があるでしょう。就職カウンセラーなどの中には少しでも世間体の良い企業にエントリーすべきだという人もいるでしょうが、話半分に聞いていたほうが無難です。就活が始まった後は説明会に参加し、働いている人や志望者をよくよく観察することも重要です*6

 

 

・伸びしろを見極める

上で述べたとおり、3月1日時点での自分の資質と入社できる企業の「レベル」がかなりの割合で相関関係にあることは事実です。しかし、それが就職活動の全てに当てはまるわけではありません。時には驚くほど些細なことで合否が決定されることもありますし、何より就活を通じて人は成長していくからです。就活は大体半年程度続くものですが、可能な限りトライアンドエラーを繰り返し、自らを是正していく作業が欠かせません。

しかし、何度か申し上げている通り、就活において評価されるポイントはまちまちで、そうしたポイントすら両義的なものです。よって、改変と改善の違いを区別し、どれだけ自分を改変すべきか、どれだけ自分を改善できるをはっきりさせることが必要だと私は考えています。さもなくば、より良くしようと思ってやったことが、実は無駄だった、それどころか改悪ですらあった、という事態になりかねません。

では、「改変」と「改善」をどう区別していくか。生得的な、あるいは20数年間生きてきて身についた自分の性質というのは自分に強く根ざしているものですので、基本的に変えることができません。例えば無口な人が就活を機に急におしゃべりになる、というのは難しい話です。しかしながら、営業職志望であればある程度口が立つように見せなければならない機会もあると思いますし、面接というたかだか30分間のやりとりくらいなら、人生最高の明るさを発揮して理想の自分を演じきれるかもしれません。こういった行いを「改変」と呼びます。つまり改変とは、自分の根幹にある性質をある程度変えていく作業のことを指します。

就活マニュアルではよく「短所を長所としてアピールせよ」という文句を目にします。そのアドバイスを受けいれるかはさておき、人間の性質には様々な面や捉え方があること自体は事実です。

ただし、私自身は「改変」の作業はほとんど行いませんでした。というのも、自分を偽ることがそもそも苦手であるというのがまず一点。そして自分の性質を変えることで、長所が削がれてしまう危険性があったため、改変によるメリットが少なかったからです。

前述のとおり、私は覇気のない人間で、口数も少ないながら営業職を志望していました。この選択を貫くべきか、面接ではもっと明るく振る舞うべきか就職カウンセラーに相談したところ、皆が口をそろえて「キャラを変える必要はない」と言いました。それは「落ち着いて論理的に会話が出来る人間だと感じさせる。暗い印象を受けるわけでもないから、営業職でも一定の需要はある。逆に無理して会話を盛り上げようとして論理性や会話のキャッチボールを損ねてしまう方が危険」という根拠に基づくものでした。

ちなみに、この作業は一人で行わないことを強く推奨します。自分が入りたい業界、企業、職種と自らの性質を見極める作業は、基本的に独力では難しい作業です。できるだけ複数人のアドヴァイスを集めた上で、最終的な判断を行うことをおすすめします。

一方、「改善」は長所を伸ばし、短所を潰すことになります。話術を磨き、論理的に思考する訓練をする、字を丁寧に書く、といったことは、やればやるだけ向上するものであるという点で誰にでも共通しているものです。とはいえ、例えば字が下手だから毎日3時間書写をするというように、時間の無駄遣いは禁物です。就活における目標に対し、有限なリソースをいかに割り振れるか、その見極めはどちらにも共通して重要なことです。

 

 

院生の学歴・成績について

 

多くの場合、院進学は同じ大学への進学か、若しくはMARCHから東大の院に行くような「学歴ロンダリング」に当てはまるのではないでしょうか。あくまで偏差値的な基準で言えば、私の進路選択はいわゆる「逆ロンダ」にあたりますし、そうした現象自体に私は特段なにも言うことはありません。ただし、私の実感としては、就活においては学部時代の学歴をかなり参照されているという感触を覚えました。もちろん私は学部卒や平均的な院生と比べて特徴的な状況にあるということもあって、典型的な学歴フィルターというものを肌で感じる機会はほとんどありませんでした。しかし面接官の口ぶりからは「@@大学を卒業している。そして大学院は別のところに進学したようだ」というイメージを持たれているように感じました。もちろんすべての場合に当てはまるかはわかりませんが、院進学において偏差値の高い大学の大学院に入学したからといって、必ずしも学歴上有利になるとは限らないかもしれません。

成績についても同様です。多くの場合、大学院の成績は学部の成績と比べて上がるのではないかと思います。しかし、就活の際は学部の成績も提出しなければならないので、大学院の成績だけで「成績優秀」をアピールできない場合も多いです。

 

 

エントリー数について

 

これは判断の難しいところではあります。というのも、企業との相性というのは実際に面接を受けてみないとわからない部分もあります*7。なんだかんだで文系院生ということで門前払いする企業もまだまだ存在しますので、ESを出してみないことには面接に進めるかわからない部分があります。しかしながら、闇雲に受けていたのでは企業研究も疎かになりますし、身が持ちません。

私自身は最初のうちはとにかくESを出し、ある程度ESの通り具合が分かった時点で「2週間に5〜6社程度まで」と決めて面接に臨みました。他方で、毎週数社ペースでESを提出し、落ちた分だけ補完するという形を取りました。そうすることで持ち駒を切らすことなく安定して就活を行うことができますし、受験企業を最低限に絞ることでESや面接の負担も軽くなります。幸いなことに、今年度は企業によって選考プロセスが比較的バラバラでしたので、このような戦略を取ることができました。

面接を辞退した企業もありますが、それ以上に持ち駒が切れるという事態は精神的なストレスが強いので、それをコントロールするという意図もありました。

 

 

相談相手について

 

就職活動において他者からの目線で自分を捉える作業は非常に重要です。特に、自分を理解している人々による長所・短所、印象、適正と、初対面の相手が自分に対して感じる第一印象を区別して把握する作業は必須です。

前者なら、友人、先輩・後輩や、院生であれば助教など、頼れる相手をどんどん頼りましょう。 様々な視点から長所・短所をピックアップする必要があります。そしてそのようなコメントからは、自分では気がつかないポイントが出てきます。

後者の場合、就活カウンセラーやハローワークの人間を活用することならだれでもできます。会話をしてみた感想、文章の読みやすさやそこから伝わってくる内容を忌憚なく言ってくれる人*8がベストです。特に院生であれば、身の回りの人々は自分の研究に理解がある人が多いと思います。ですので、就活課の人々や、あるいは自分の親など、自分の研究に全く理解がない人に模擬面接をしてもらうと良いでしょう。

ちなみに、就職友達もいて困ることはないかもしれませんが、基本的には不要だと思います。というより、何故必要なのか私には検討がつきませんし、就職中に知り合った人の中で、連絡先を交換した人はゼロでした。

 

 

公務員試験について

公務員試験に関しては、私自身長大な時間を費やした経験もあるので、いずれ別のエントリにまとめたいと思います。ですので、ここでは公務員試験を受験するにあたっての比較衡量の話にとどめます。

果たして、文系院生が就職口確保のために公務員試験を受験する意味はあるのでしょうか。答えは人によりますが、もし文系院生は民間で就職できそうにないから、保険の意味で公務員試験を受けるという考えに基づく選択であるなら、熟考をおすすめします。

というのも、当ブログで解説したとおり、文系院生(それも最も就職に不利と考えられがちな哲学系専攻のM3でさえ)でも民間企業への就職は可能であり、一方で、特に人文系の院生が公務員試験に費やすであろうリソースは民間企業への就活よりも大きくなるからです。

もし中学受験、国立大学受験の経験がなく、人文系の学部・院に在籍しているのであれば、公務員試験に割かなければならない勉強量は相当量にのぼります*9。逆に言えば、経済系・法学系の難関国立大学に在籍している人であれば、それほど苦もなく難関公務員試験をパスすることも可能です(下記参考サイトを参照のこと)。さらに、3年次進級時点で単位をとり終わっているような真面目な受験生に比べて、修士課程1年次はやることが山積みです。そのため、他の受験者に比べて不利な環境で臨むことになることは基本的には避けられません。

また、現在は公務員試験であれど面接が重視されますので、民間企業と大差ないレベルの面接試験も多く存在します。

加えて、公務員試験はリスクヘッジが難しい選択でもあります。民間企業は受け続けることが可能ですが、公務員試験は併願先が限られます。そのためコケたら来年の再受験を待たなければなりませんし、ギリギリのタイミングで民間企業に鞍替えすることも難しいです。私のように大幅に出遅れてしまい、エントリーを逃すことになるかもしれません。

これらの点から、公務員試験が民間企業就職に比べて楽な道であるとは言いづらいというのが結論です。もしもどうしても保険をかけたいのであれば、学部卒の時点で国家総合職に合格し、院に進学するというのが最も合理的かなと思います。特に経済系、法学系であれば不可能な選択肢ではないでしょう。

 

 

終わりに

 

長くなりましたが、ここで就活マニュアルは一度締めたいと思います。お付き合いいただき誠にありがとうございました。この就活マニュアルが就活生の役に立てたなら、あるいはこれから院進学を考えている学生の参考になれたなら幸いです。

また何か思いついたら加筆修正を行うかもしれません。「文系院生のための〜」と銘打っておきながら、あまり院生ならではの解説ができなかったことが心残りですので、なにか思い出したら書こうかなと思います。

向こう一ヶ月程度は修正作業で文章が安定しないかと思いますがご容赦ください。一ヶ月以降の加筆修正はその旨追記します。

 

 

 

 

 

付録:参考になるサイト・ならないサイト

 

・民間企業の就活 

kanedoの就活記事まとめ

The Dosanko Nikki from Tokyo

私は就活においてこの二つの記事をひたすら読んでいました。正直、私の就活マニュアルはこの二つの記事の焼き直しのようなものです*10

 

 

・公務員試験

○感謝のプログラミング10000時間

○Tech mind

国家総合職合格者のブログです。参考になる部分は多くありますが、情報処理能力に長け、取捨選択が的確に行える人でなければ同じスケジュールでの合格は困難に思います。

 

 

・その他就活サイト

 

×みんしゅう

これを見る暇があったら他のことに時間を割きましょう。せいぜいESの締め切りくらいしか役立つ情報はないので、むしろ精神衛生上封印したほうが懸命です。

×2ちゃんねる・就職偏差値

これも必要ありません。信憑性に乏しいというのが大きな理由です。業界研究を行ってみればわかることですが、同じモノを扱っている会社でも、そのビジネスの仕方は千差万別です。当たり前ですが、ひとつの企業をどのように評価するかは就職活動を行っているあなたの目線にのみ依存しているわけで、偏差値という基準で比較できるものではありません。もし業績や年収で比較したいのであれば四季報や業界地図で十分です。

 

 

*1:私は内定を頂いた企業の面接で「君はオーラがないね」とはっきり言われました。

*2:そのため、就活生全員がある程度意識すべきポイントとして、私は「素直さ」を提示しています。

*3:サボるとすぐにおいていかれるので、基本的に就活には人生最大の生真面目さ(授業を遅刻したりサボったりしがちな人は要注意)でもって臨んだほうがよいです。

*4:このエントリを書いている9月現在、企業から毎日二次募集のメールが届きますが、多くの場合これは敗者復活戦を意味しません。

*5:但し、これは「高望み」という事態だけに当てはまるものではありません。例えばさしたるウリのない中小企業に東大院卒が「第一志望」だと言って面接を受けに来たら「何故ウチなんかに入りたいんだ?」と訝しむでしょう。

*6:私はこうした「合う/合わない」といった感覚的な部分を、客観的な統計情報と同等か、それ以上に信じるべきだと思います。何故なら、その企業の社風や働いている人の性質が自分と合致しているかどうかは自分にしか分からない上に非常に重要だからです。但し、自分はコミュニケーションを取ることが苦手だから営業は無理、商社は体育会系っぽいから合わない、というようなイメージに基づく視野の狭め方は一方で危険です。あらゆる判断にはその人のフィルターが介在します。人は自分と向き合うときすらそのフィルターを通さざるを得ません。自分の判断に自信を持つためには、日頃から自分自身と向き合い、そうした判断の偏りの方向性をわきまえておく必要があるように思います。

*7:とはいえ、なるべくギャップを減らすために説明会での印象を重要視したほうがよいというのは前述のとおりです。

*8:批判をしてくれる人と、ただの非難に留まる人を混同すべきではありません。後者は精神衛生上非常に有害なので、相談が辛くなるような相手はそうそうにチェンジしましょう。

*9:ここでは国家総合職や外務専門職といった難関とされる試験を念頭に置いていますが、地方自治体や国2であっても科目の多さから見て勉強の総量に大差ないのではないかと思います。ちなみに専門科目を廃止する自治体は増加していますが、その分だけ面接に比重が置かれているため、そういう自治体を受けると結局民間企業と同じ選考ステップを踏む羽目になります

*10:それでも長大なエントリを書いたのには、私自身就活という半年の活動を通じて思うところがあり、それについてまとまった論考を書きたいと思ったという理由と、同じ方法論を基に行うことでも細かい差異は生まれ、時にはその差異が読者にとっては重要なヒントにつながると思ったという理由があります。