Excès, et Marges.

「余白への書き込み」

文系院生のための就活マニュアル:自己分析編②

 

前回のエントリでは理念的な部分を説明しました。本エントリでは、自分のアピールポイントを個別的なエントリーシートでどのように表現していくかについて書きます。

 

エントリーシート

 

前回のエントリに書いた作業を通じてある程度自己PRの材料が揃ったら、エントリーシートの執筆にとりかかりましょう。様々な設問・字数に対してアプローチすることで文章が熟れていきますので、とにかく量を書き、どんどん添削してもらうことが望ましいと思います。

添削がなぜ必要か、これについては文章構成能力の問題ではなく、自己PRが的確に行えているか、という観点から述べています。文系院生であればある程度文章構成能力は備えていると仮定しますが、自分の研究や経験を専門外の人間に対してわかりやすく簡潔に説明できる能力はそう簡単に身につきませんし、就活というフィールドではその能力がかなり高い水準で求められることを覚悟してください*1。具体的には、理系の高校生にもわかるレベルを想定することが無難でしょう。この感覚を直観的に把握するために、同じ専攻・学部・研究科の人に限らず、様々な人に添削をお願いすることが有効になります。

大学院の研究なのだから高度なことを書かないと評価してもらえないという不安も当然あると思います。しかし、ESは面接の話の種としての側面が非常に強いものです。まずは相手に大まかな内容が伝わり、興味を持ってもらわないことには会話につながりません。

 

 

フレームワーク

 

こうした個別的な作業の一方で、就職活動における自分なりの汎用性の高い論理を構築しておく必要があります。有り体な表現を使えば「就職活動の軸」です。これはESを書く際の雛形にもなりますし、何より面接に臨むための必須作業です。というのも、ESは綿密に時間をかけて準備することが可能ですし、基本的には一問一答ですが、面接は会話ですので、様々なやりとりを通じて一貫したロジックをアピールしなければなりません。そのためには、種々の問答に耐えうるような論理を積み上げておく必要があります*2

この論理を構築するうえで非常に重要となる質問は次の2点です。

  • Q1.なぜあなたはこの会社に入りたいのか?(志望動機)
  • Q2.なぜ会社は「あなたを」採用する必要があるのか?(自己PR)

私はロジカル面接術などで紹介されているこの質問をひたすら掘り下げてゆくことで、面接本番でもある程度ブレない意見を述べるよう心がけました。順番に具体的なプロセスを見ていきます。

一問目は志望動機です。個別的な志望動機ではなく、どのような基準で会社を選んでいるかについて考えてゆくほうがベターでしょう。私は基本的に「私の就職活動の軸は〜です。貴社はその軸に合致しているため志望しました」という構成で志望動機を考えていきました。

まずは核となる回答を「〜という理由で貴社を志望します」と一言で用意します。次に、何故その志望動機を持つに至ったか、その軸は何故あなたにとって重要なのかを掘り下げていきます(例えば「グローバルな会社」を重視するなら、なぜあなたにとってグローバルという基準は重要なのか*3)。そののちに、あなたにとって重要であるその軸に沿うべく、あなたは今までどのような着眼点を持ち、どのような努力を行ってきたかを書き出します。ここで前回のエントリで行ってきた経験の棚卸しと意味付けが活きてきます。前回の作業で見極めた価値観と経験を、注意深く論理的に体系化するのがここで行う作業の目的です。こうした自問自答を繰り返してゆき、煮詰まったら最後に「ではなぜこの会社が最適なのか」という質問に回帰します。ここでもやはり、前回のエントリで紹介した綿密な企業分析の作業が活きてきます。客観的な指標を伴って効果的な論証を行うことができればベストです*4

二問目は自己PRです。こちらもまずは「私は〜という能力で貴社に貢献できます」という核となる回答を用意します。こちらに関しても同じ手順で「なぜその強みが会社で活かせるのか」、「その強みを得るに至った理由はなにか」、「本当にその能力は身についているのか」と掘り下げていきます。当然、志望職種も考慮にいれる必要があるでしょう。文系であれば、営業・人事・経理の特色を押さえた上で、自分の適性と照らしあわせ志望する職種を決定してゆけば良いと思います。

ここで文系院生が注意すべきポイントは、ポテンシャル専門的な技能を区别することです。総論編で述べた通り、文系院生は基本的に学部生と同じく、入社してからの伸びしろを大幅に重視されます。そのため、例えば自律心や課題解決能力といった、入社してからどれほど成長できる人材であるかを示す資質をアピールをしなければなりません。例えば2年間かけて一つの論文をトライアンドエラーを繰り返しながら完成に持っていく作業は、課題解決能力をアピールする要素として有用であると私は考えます。

一方で、院生である以上、学部生にはない専門的な能力(語学力など)もアピール材料になるでしょう。しかしながら、院生であることを意識しすぎるあまり、学部生に求められる能力を一切アピールしないのは危険だと私は考えます*5。とかく院生はフィルターを通して判断されがちなので、素直さや柔軟性をアピールする意味でも、前者の部分を抑えておく必要があるでしょう。 

繰り返しになりますが、どちらの問いにおいても重要なのはあなたの能力、価値観、意思決定であり、エピソードはその証明にすぎないということです。いくらユニークなエピソードを持っていても、あなたの能力を証明するものにならなければESで披露することを控えたほうがよいでしょう(極端な例ですが、頭の回転を裏付けるエピソードでダーツ大会の優勝経験を持ち出すようなことです。そんなことはするわけがないと思われるかもしれませんが、実際就活の場においてこのようなアピールはしばしば目にしました)。的確な論拠を提示することも、論理性をアピールする上で重要なポイントです。

*1:私はメーカーを志望していたため、技術職にもわかるように研究内容を伝えることに非常に腐心しました。

*2:詳しくは後述しますが、私は企業ごとにアピールする項目をガラリと変えたり、志望業界やその理由を偽ることは基本的にしませんでした。理由は単純で、嘘をつくこととアドリブが苦手だからです。完全に戦略的な就活を行うならこのような行為も必要だと思いますし、その場合、全ての企業にアプライすることのできる論理を組み上げる必要は無いと思います。

*3:抽象的な名詞(グローバル、技術力、プロフェッショナリティ、etc)を使う際は、必ずその語の定義を自分なりに明確にしておきましょう。当ブログでも時々「〜とはなにか」というタイトルでそうした試みを行っていますが、例えば「私の考えるグローバル人材とはなにか」という題材で論考を行っておくと面接での会話に厚みが生まれますし、入社試験の小論文にも有効です。

*4:ちなみに、ESは先述の通り、面接のネタになるものですので、大した字数が書けずにギリギリまで文章を捨象する場合がほとんどです。例えば今回の作業を通じて書くメモの量は膨大なものになると思いますが、その全てをESや面接で披露できるわけではありません。ですが、少なくともどこが最も伝えるべきポイントなのかは常に把握しておきましょう。当ブログのように、重要な箇所を太字にしておく習慣をつけるのも有効だと思います。

*5:私自身は就活カウンセラーに「あなたがどう考えていようが、あなたの武器でありポテンシャルの土台になっている部分は学部生時代に構築されているのだから、院生としての就活でもそこは意識しておくべきだ」と言われました。