Excès, et Marges.

「余白への書き込み」

文系院生のための就活マニュアル:自己分析編①

 

多くの就活本が既に同様のことを書いていますが、就活における自己分析を定義するとすれば、それは「ESや面接においてアピールとなりうる自分の資質を見極め、それを裏付ける経験を棚卸しし、長所として簡潔にまとめ上げる作業」であると言えます。「自分の価値観を分析し、適切な職業を探し出す」というものではないことに注意してください*1

具体的な作業においては、重大な場面においてどのような価値観や判断の下、意思決定を行うか、という観点が、自己分析にて大きな指標となるのではないかと私は考えています。今までの人生における主要な出来事(部活、受験、サークル、アルバイト、etc)を振り返ってみて、自分はどのような基準にもとづき進路を決定したり、アルバイトを選んだり、サークルをやり通したりしたのか、書き上げてみると良いでしょう。

しかしながら、多くの人は大した理由もなく部活を選び、偏差値と科目が自分の成績と合っているから文学部を受験し、サークルを一年で辞め、アルバイトをお金を稼ぐ手段としてしか考えてこなかったはずです。明確な意思決定の下、無駄のない二十数年間を過ごしてきたのであれば、わざわざ自己分析をする必要はないでしょう。

その場合、面接やESのネタになる経験を見つけて、自分の長所を裏付ける意思決定をすりあわせていく作業が必要になります。というのも、あらゆる意思決定には長所もあれば短所もあるからです。物は言いようなので、可能な限り良い部分を抽出するようにしましょう。物事が長続きしない人は好奇心が旺盛でフットワークが軽いとも言えますし、無口な人は思慮深く、言葉遣いに気を使える人であるとも言えます。上記の例で言えば、サークルをすぐに辞めた理由は学業に専念したかったから、アルバイトに精を出したのは金銭的に余裕がなく自立した生活を送りたかったから、等といった具合です。

この作業が必須であるのは、「意思」というものの特性に理由があります。何故なら、本人がどのような意図で活動したか、それは本人にしかわからないことですし、いくらでも改変可能だからです。自分の経歴を見て、大きく目につく転機(大学院を変更した、休学・留年した、といった履歴書上のものも含めて)があれば必ず理由付けを考えておく必要があります。それが一貫した価値観の下で行われたものであるような理由付けであればベストです。なぜなら、そういった部分は面接で突っ込まれるからです。面接官は、そういった紙面上の特徴を質問することで、あなたの考え方や価値観を見ようとしているのです。

例えば、私自身は就活中「学習欲」という長所を一つ挙げ、それに準じて大学院を変更したことや休学の事情を作りこみ、面接に臨んでいました。本当は(そういう動機は多少なりともあったとはいえ)それほど大層な理由で大学院を変更したり休学したりしたわけではありません。

ここまでくるとお分かりかもしれませんが、学生が良く面接で話すアルバイトやサークルの体験というのは、あくまで自分はどのような人間であるかを説明するための材料に過ぎないのです。本質的な部分はあなたのエピソードではなく、あなた自身がどのような人間か、にあることを常に意識してください。もしその体験がユニークなものである必要性があるとするなら、それは面接官を退屈させないかどうか、程度のものでしかありません。それも、こちらの話が冗長であれば全くの無駄になってしまいます。

しかし、逆説的ですが、自分はこういう人間であるという説明をするにあたって、そういった経験は論拠として最低限必要ということになります。例えば「学習欲」を長所として提示するのであれば、文句のない学業成績や検定証を履歴書に添えるだけで説得力が増しますし、それができないのであれば代替となる何らかの証明を見せる必要があるでしょう。ですので、わかりやすい客観的なデータを就活前に揃えておくことをおすすめします。それらは多くの場合、決定打にはならないのにネガティブチェックには使われます。つまり、それらを欠いてしまうと「君は留学に行ったみたいだけど、なんでTOEICを受けていないの?」「勉強したくて大学院に行ったのに、なんで学業成績は良くないの?」と、要らぬ疑問を持たれることになります。よって、なるべく自らの経験を棚卸しして、そこから一貫した論理を導き出す、という手順を踏むことを推奨します。

とはいえ、就活を始めた直後は、どのような点がアピールポイントになるかすらわからないと思います。就活本を立ち読みするのもいいかもしれませんが、ああいった本は優れた経験(大会で優勝した、バイトの売上を二倍にした、優れた研究を行い学会発表で評価された、等)を前提としているので、あまり参考にならないと思います。手っ取り早い方法は、周囲の人間(友人、同僚、先輩など)に「私はどういう人間だと思いますか?」と質問して回ることです。今どき就活で自己分析をすることなど世間の常識でしょうし、怪訝な顔をされることもないでしょう。他人の目線は自分で見落としがちな自分の癖や傾向、性格を知る上で大いに役立ちます。

もっと客観的かつESにおいて実践的なデータを得るためには、ストレングス・ファインダーというアプリケーションが有効です。これはWEBテストなどでよく見かける適正検査の詳細なヴァージョンで、選択肢に回答していくだけで自分の意思決定における傾向を分析してくれるものです。精度も高く、意思決定をはっきりした言葉でまとめてくれるので、自己分析をしていてパッとしたフレーズが見当たらなかったりしたときは活用するとよいでしょう。

これらの情報を下に、自分なりの長所を言葉として考えだし、自分の経験とすりあわせて一貫したエピソードにまとめ上げる作業が、自己分析であると私は考えています。故に、「ユニークな体験をしなければ面接で勝てない」、「TOEICを受けていないなら捏造しなければならない」という考えは本質をついておらず、リスクに見合う効用をもたらさないと考えます。

 

*1:その作業も重要ですし、大いに行うべきことではあります。しかし、例えばESにを書いてる時に適職探しをしだすといつまでたっても何も書けなくなります。決して就職活動における自己分析と混同すべきではありません。