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Excès, et Marges.

「余白への書き込み」

文系院生のための就活マニュアル

 

目次

  1. 総論編(本エントリ)
  2. 自己紹介編
  3. スケジュール編
  4. 準備編①
  5. 準備編②
  6. 自己分析編①
  7. 自己分析編②
  8. 面接・GD編
  9. 結論・補遺編

 

はじめに

 

一般に、文系院生の就活は非常に厳しいと言われます。

昨今話題になっていますが、人文学に対する「非実学的で社会に出ても役に立たない」というイメージは根強く、特に人文系院生は「まっとうな人生を諦めた」「お先真っ暗」などと言われ放題です。確かに、学部生ですら文学部に対する世間の風当たりは強いのだから、さらに人文系の院生になり歳を重ねながら民間企業に就活だなんて、はたから見れば狂気の沙汰かもしれません。

実際、人文系の大学院というコミュニティは、理系大学院や、修士卒でも就職先が比較的多様な他の文系大学院とは内包する事情が異なります。上のイメージをわきまえて進学する人が多いためか、研究者になるべくそれ相応の覚悟をもって進学している人が多く、逆に学問をもう少し深く修めたい」「就活がうまくいかないからもう少し準備期間が欲しい」といった理由で進学し、修士過程の修了と同時にアカデミアを去る人間は相対的に少ないです。まっとうな大学院であれば、おそらくそこにいる学生は研究職志望が大半を占めています。

では、人文系の修士課程は研究職のためだけに開かれた場所でしょうか。私はそうは思いません。理由はいくつかあります。

まず、大学の学士課程は基本的に四年制ですが、この期間が一つの学問を深めるために十分な期間であるとは限りません。私が専攻している西欧哲学を例に挙げると、その学習環境には日本と欧米の間で大きな差があります。欧米諸国の中でも特に哲学教育に力を入れているフランスでは文理問わず全ての学生が哲学を学び、大学受験における文系科目の中でも配点率はトップです*1。また、フランスの大学入学資格試験は論文式ですので、フランスの高校生は西洋哲学史のみならず、特定の主題に対して論理的に文章を組み立て、適切な引用をするスキルを学びます。このように、フランス人が高校生のうちから西洋思想史、および哲学的思考を学習しているのに対し、日本で哲学を本格的に勉強しようとすると、早くても大学1年次、専攻やゼミが決定してからであれば大学3年次からのスタートになります。さらに、英語や西欧諸語が母国語ではないという広大なハンディを乗り越えなければなりません。加えて、日本では大学4年次には就活があります。このような理由から、もしも本場の教育で得られるものと同水準の教養を身につけようとすれば、学部生は相当努力して、それも素早く勉強しなければならないでしょう*2

また、これは専門課程に限った話ではありません。社会人の先達の昔話を聞くと、どうやら当時は一切勉強しなくても社会で生き抜くのは可能であったようですが、現在の社会情勢を鑑みるに、社会の中でサヴァイヴするために必要な、大学で身につけるべき素養は増加の一途をたどっているように思います*3

それに対し、日本人が社会に出るまでに与えられた時間は、当然ながら今も昔も変わりませんし、肉体というハードウェアにも変化はありません。また、これらを23歳までに要領よく身につけることのできる能力と意思決定の素養、そして素早さを兼ね備えた人間はごく一部だと思います。 ゆえに、多くの人が運とポテンシャルで世の中を渡り歩いていますし、逆もまた然りで多くの人が運とポテンシャルで就職活動に苦戦しています。大学生活のうちに、社会にあたって必要な、ひいては自分の人生を全うするために必要な素養を身につけなければならないという事態は今後ますます顕在化すると私は考えています。

これらの理由から、社会に出るにあたって要請される素養をより深く身につけるために修士課程に進学するという道、あるいは修士課程にて専攻科目の学びを深めるという道は、万人に奨励されるものではないにしても、決してあり得ない選択肢ではないと思います。

では、最初に述べた通り、文系大学院に進学したら就職の道は諦めなければならないのでしょうか。この意見も実情を捉えていないように思います。適切なプロセスを踏めば十分に就職は可能だと私は感じています。

修士課程で研究を終え、就職しようと考えている人々の、あるいは道半ばにしてアカデミズムから離れようと思い立った人々の手助けになればと考え、本稿*4を執筆しようと考えました。

 

 

文系院生の就活について

 

私個人の感想ですが、基本的に人文系の院生が就活で有利ということはありません。これはある程度誰もがわきまえていることでしょう。

では文系院生、あるいは既卒であることは、民間企業からどのように評価されるか。よく「企業は院卒に対して即戦力となる人材を求める」という主張を耳にします。この場合の「即戦力」という語の意味は「院卒が入社初日からバリバリ働ける」という事態を指しているわけではなく「新卒と同等、若しくはそれ以上に、長期的にみて企業に利潤をもたらすだけの能力がある」という意味で捉えるべきでしょう。

学業を終え社会にはじめて出る人を、ビジネスの場で利潤をあげられる人間に育てあげるためには莫大なコストがかかります。例えば普通の企業であれば必ず数ヶ月から一年間程度、入社した新卒者に研修を課します。大学院生は学部卒が新卒教育を受け、ある程度のビジネスの作法を学ぶ時間を引き換えに専門的な勉強をするわけです。すなわち、大学院で専門的な知識を身に付けており、それが企業にとって利潤をもたらすものであれば、その大学院生は歓迎されます。なぜなら、企業からすればコストをかけずに都合の良い能力を持つ人間を雇うことができるからです。

では、その能力はどのように身につけるか。経済、経営系の大学院ならそれは可能でしょう。語学留学や海外インターンで実用的な英語を身に付けている人も可能性はあるかもしれません。しかし、大部分の(特に人文系の)院生は上記のような即戦力の能力を身につけるべく研究活動に勤しんでいるわけではありません。私も実際、そういった能力は備えていません*5。理系院生は上記の理由から研究職として採用されるわけですが、一方で文系の場合、一部業界を除き学部卒・院卒を問わずこうした専門的な能力が求められないような場合がほとんどです。それに、そもそも文系採用の職種は限られています。

そうすると結局、年齢というハンデをかかえながら新卒と同じ土俵で戦う羽目になります。よって、残念ながら人文系の院生は、多くの業界において、学部卒と同じ土俵で、ハンデを抱えながら戦うことになるでしょう。

というのも名だたる大企業なら放っておいても優秀な学部生がたくさん集まるわけです。彼らよりも年齢を重ねているからには、相応の能力がなければ対抗できません。これは院生や既卒に対する偏見ではまったくなく、単純な比較衡量の問題です。逆説的に、優秀なポテンシャルを持つ学部生に対抗できる素養や能力があれば、文系院生や既卒でも年齢差は挽回可能だということになります。

よって、結論としては「+3程度の年齢差で足切りに合う可能性は低いが、新卒採用であればより若いほうが望ましい」というところに落ち着きます。

では、ただ単に圧倒的に不利な状況で就活をしなければならないか、といえばそうとも限りません。ストレートで大学を卒業できる人間は限られていますし、一浪一留で既に+2です。それくらいならザラにいますし、それだけで社会落伍者の烙印を押されるとは考えにくいです。年齢を重ねた理由を筋道立てて話せば、門前払いに合うことはないでしょう。よって、企業としてもほんの1,2歳程度の年齢差をクリティカルな要素として見てはいないと私は考えています。

だとすれば、例えば大学院生はコミュニケーション能力や協調性を懸念されがちですが、大学院で2年間学問にひたすら集中したという客観的な事実もまた同様に、その人がアカデミズムに染まった「変わり者」と判断される決定的な要素にはなり得ないことが多いと推測できます。故に、一般的な文系院生が就職において取り返しの付かない進路であるとは考えにくい、というのが私の考えです。

加えて、企業から見て本当に優秀な学生というのはごく僅かです。上述の通り、大部分の学生は学業もバイトもサークルもそこそこに行い、戦略なしに運とポテンシャルで就職活動に参加しています。また、優良企業でありながら知名度の低さからまともな学生がまったく集まらないような企業もたくさんあります。

優秀なポテンシャルを持たない学部生が相手なら、ちょっとした工夫で逆転は十分にありえると私は考えています。少なくとも、まったく歯がたたないということはありえないでしょう。

それ故に、(文系院生の)就職活動においては「計画と戦略」が重要になります。大きなK点越えをもたらすものではないかもしれませんが、年齢というハンデを限りなく埋めることが前提となる人文系の院生の就職において、無くてはならない要素です。

*1:【現地取材@パリ】思考の方向を定めるとはどういうことか―フランスの高校における哲学教育http://utcp.c.u-tokyo.ac.jp/blog/2008/11/post-150/ 

*2:詳しくは別エントリ

を参照。

*3:詳しくは別エントリにまとめます

*4:本稿は、自身の体験を踏まえ、理想的な学生生活を提案するものでもあります。必ずしも本稿のように大学院生活を送ることができるかといえばそうでもないでしょうし、できたからといって必ずしも万事うまく行くわけでもないであろうことは予め申し上げておきます。

*5:しかしながら、あらかじめ就職を見据えて院進学をするなら、こうした「即戦力」となるべき能力も含め、就職を念頭に置いた活動計画を綿密に立てることを強く推奨します。一例として、公務員試験勉強という手もあると思いますが、公務員試験受験の是非については後述します。