Excès, et Marges.

「余白への書き込み」

僕が幼少期に両親から受け取った音楽的選好はサザンとユーミンに尽きる。

TUBEが太陽の季節を象徴し、広瀬香美がゲレンデの女王であるように、どうやら世間では、サザンは夏、ユーミンは冬という対立軸も存在するようだ。

言われてみれば「ロッヂで待つクリスマス」「BLIZZARD」「サーフ天国、スキー天国」「恋人がサンタクロース」と、80年代後半以降のユーミンのヒット曲は冬モノが多い。考えてみれば『春よ、来い』だって春の曲ではない。

 

このエントリを書きながらググっていたら気づいた。上の曲はいずれも、87年に大ヒットした映画『私をスキーに連れてって』のテーマ曲だった。同時に、89年の映画『彼女が水着にきがえたら』のテーマ曲はすべてサザンが作曲している。

僕が一番サザン(桑田佳祐)を夢中になって聞いたのは中学生の頃で、当時は『TSUNAMI』を最後にサザンが休止し、桑田佳祐がソロで『波乗りジョニー』や『白い恋人達』のような名曲を連発していた時期だった。だから僕は桑田ソロの曲をかなり好んで聴くのだけど、一方でサザンの曲も小学生の頃よく聞いていたので同様に好きだし、そのせいかサザンはやはり夏のイメージが強い。

しかしながら、松任谷由実はサザンに比べてあまり聞かず、本格的に聴き始めたのは高校以降、それも荒井由実の頃の曲ばかりだった。

荒井由実時代の曲といえば『雨の街を』『海を見ていた午後』『瞳を閉じて』など、冬や雪を連想させる曲が少ない。同じアーティストでも年代によってその曲からもたらされるイメージはだいぶ異なるんだなと思う今日このごろ。

上でも挙げたが、僕がユーミンの曲で一番好きな曲は『雨の街を』である。確か本人も「一番好きな曲」だと言っていたような。

夜明けの雨はミルク色 静かな街にささやきながら降りて来る妖精たちよ

ド頭一行の歌詞だけで完全に持って行かれてしまう。確かにこの曲は「雨の街を」歌っているが、そこにある情景の力点は、湿度に充たされた世界に置かれているように思う。例えば濡れて色の変わった木製の手すり、水滴を浮かべた芝生、霧で見晴らしの悪い森への道、湿ったアスファルト、、、

当時のミュージシャンにとって、「イギリスの曇り空」への憧憬みたいなものは確かにあったのだろう。aikoにもこれは受け継がれているところである。ただ、僕はブリティッシュ・ロックについて全く知らないので、この曲を聞きながら瞼の裏に浮かぶのはイギリスそのものではなく、軽井沢にあるような洋風の家だ。

とはいえそれは、若かりし頃の荒井由実本人のような裕福な少女が避暑に訪れる閑静な別荘地のことだ。「かまいたちの夜」のペンション「シュプール」のようなリゾート地としての長野がスキー目当ての大学生で賑わい、スキー場で松任谷由実の曲を聞くようになるには、まだ数十年を待たなければならない。